夏季集中講座の主題「本当のフィルタリング・サービスとは!」

 奈良市、広島市、京都市、岡山県の4自治体からの依頼でおこなった「ペアレンタル・コントロール夏季集中講座」が、過日無事終了した。今回の講座では、私、下田博次と下田真理子に加え青少年メディア研究協会啓発事業部門講師として長谷川泰二、小宮山康朗
 の両名が参加した他、日本の代表的フィルタリング・サービス企業であるネットスターおよびデジタルアーツ両社からも講師を派遣していただいた。

 各自治体では、「地域でペアレンタル・コントロール能力を有する市民ボランティアを育成したい」という行政担当者の熱意と子どもたちのネット利用を憂慮する保護者、教師ら受講者の志の高さが如実に感じられ、私としては大変やりがいのある講座となった。とりわけ、日本のフィルタリング・ソフト、サービス業界の雄である2社のご協力で、集中講座の内容は一層の深みが得られた。改めて感謝申し上げたい。

 ところで講座開設中に改めて思ったこと。それは「今年は、日本における青少年インターネット利用問題の転換点の年になるだろう。」ということだ。我が国は、米国におよそ10年遅れて「子どもたちのインターネット利用を健全化させる」ための国民的努力をはじめた、というのが私の現状認識である。

 米国は、子どもたちのインターネット利用の本格化を目前にして1990年代の後半より、青少年健全育成という観点で、テレビ(マスメディア)の時代の有害情報問題からインターネット(パーソナルメディア)時代の有害情報問題へとスイッチを切り替えた。そして表現の自由という枠組みのなかで、大人社会の有害情報議論とは別に「子育て教育の立場からした情報の有害性」について議論を展開し、幾多の施策も講じてきた。つまりネット時代に子どもを守り育てるための法律を作り、業界と計らってフィルタリング・ソフトの普及にも努めてきた。
 この間、わが国はパソコンや携帯インターネット機を子ども世界にばら撒くばかりでフィルタリング・ソフト、サービスの普及は遅れに遅れている。日本の子どもらは、とりわけ携帯電話からインターネットの世界に入っていくようになったが、もともと携帯電話からのネット利用ではアクセス制限ヘ考えられてはおらず、この10年間子どもらはネットの有害情報にさらされ続けてきたといつて過言ではない。

 そのため子どもらを取り巻くマスメディア時代とは比べようもない有害情報環境の進展に対する危機意識が出はじめたことで、昨年末から、青少年の有害情報環境改善のための法的対応やフィルタリング・ソフト、サービスの普及努力が声高に唱えられるようになった。遅まきながら始まったこの流れのなかで、これからわが国でも青少年にとって有害な情報とは何か、という議論が本格化していくであろう。

 問題は子どもにネット遊びを仕掛ける企業が、子どもにとっての情報の有害性を決めるのか、それとも子育て教育に責任と義務をはたすべき保護者、教員が「子どもにとつての情報の善し悪し」を決めるのかだ。どちらになるか、この違いは大きい。
 原則論からすれば、業者ではなく、子育て教育に責任と義務をはたすべき大人が、情報の善しあしを決めるべきだろし、その判断にのっとって携帯インターネットのフィルタリング(アクセス制限)サービスのあり方も決められるべきであろう。今回の集中講座では、そのことが改めて確認された。

 ようするに今回の集中講座は「我が子や生徒をどのような情報で育てたいのか」逆に言えば「どのような情報を避けたいのか」を議論して決めることができるような市民を育成することに狙いがあった。そして、本当のフィルタリング・サービスはそのような保護者、教師を助けるものであるべきだろう、というのが私どもの認識である。

 実は、夏季集中講座に先立って、私は日本の子どものネット利用問題の解決について警察関係者と意見交換をする機会があった。そこで警察関係者から「我々もフィルタリングを一生懸命薦めてはいるが、フィルタリングだけ入れればよいという単純な話ではないし、なにより本当に良いフィルタリングかどうか見極めが難しい。」という本音も聞いている。インターネットのできる携帯電話の低年齢への普及が急激なわが国で、子どもにとっての情報の善し悪しと本当のフィルタリング・サービスとは何かという議論を深める必要があるだろう。