忘れ難き2つの国際会議のこと

 子どものインターネット利用に関して私は群馬大学社会情報学部下田研究室時代に忘れることが出来ない2つの国際会議を経験した。そのことを改めて記しておきたい。
  ひとつは2004年に群馬大学で開いた「子どものネット利用に関する日米英市民交流・会議」であり、もうひとつは、2006年にソウルで開かれた「子どものネット利用アジア専門家会議」であった。

 群馬大学で開いた2004年の会議のことは本にも書き、私が開いている市民インストラクター養成講座でも解説しているので詳しくは述べないが、いわゆるケータイにもフィルタリングが必要なこと。そのためにも「子どものインターネット利用は保護者の責任」という考えに基づくペアレンタル・コントロールの概念を我々に教えてくれた会議だった。

 今回は2006年のアジア6カ国の研究者仲間との研究会議について記しておきたい。この研究者会議(会議というより意見交換・勉強会)では2つのことがテーマとなった。ひとつは、日本の子どものケータイ利用の問題であり、もうひとつは「子どものためのあるべきインターネット環境」を考えることであった。世界に先駆けて普及した中高生の携帯電話からのインターネット利用ブームに関しては、日本のこどもに良いインターネット利用経験はさせられないだろう。ということで意見の一致をみた。

 現実にも、クローズド・マインドな商品設計のケータイ、iモードはガラパゴス・ケータイと言われ、日本の子ども社会にエンコーの広がりだけを残してスマートフォンというモバイル端末にとって変わられようとしている。しかし、iモード(ケータイ)のことより今回記しておきたいのは「子ども達に与えるべき(用意すべき)良いインターネット環境とは」という議論のことである。結論を言えば、子どもに良いインターネット環境とは「互いに学びあい意識を高めあうことが出来るネット環境」のことである。私は「日本人とインターネット」という自著にも書いたが、インターネットは社会思想家であるイリイチの影響を受けた若きパソコン技術者達が、イリイチのラーニングウェブ(互いに学びあう知のクモの巣)という理想の実現を目指して作り出したメディアである。

 このインターネットの設計思想を理解し、その実現を目指したネット環境を日本語インターネット圏で作り出し、子ども達に用意すれば、日本の子どもたちもインターネットの+方向の利用がすすみ賢くなる。しかし、PCからではなくケータイという不完全なモバイル端末(ケータイ用サイト・コンテンツ群も含め)では(知のクモの巣ではなく反対の快楽のクモの巣、プレジャリング・ウェブ)という低レベルのネット利用環境に子ども達を引っ張りこむことになる恐れがある。(会議ではこれをネットのマイナス・ベクトルと言った)
  
 ちなみにアジア会議では、インターネットの知のウェブを実現するためには、大人の理想(意識化)が必要になるが、マイナスのベクトルである快楽(享楽的)クモの巣のウェブ環境を作るには、ただ欲望の力(金とセックス)を働かせるだけで実現するという話になった。

 私達日本の大人は、子ども達にどのようなウェブ環境を用意しているのか?これから下田は、このことを保護者や教員の皆さんに問うていきたい。