ドロ縄式のスマートフォン対策-実効性に?

 NTTドコモが中高生に向けてインターネット接続型携帯電話をフィルタリング無しで発売した時、私は「携帯電話の通話機能が問題ではない。携帯電話に組み込まれたインターネット機能を問題にすべきだ。子ども達にインターネットをどのように使わせるべきか国民的議論が必要だ。」と社会に注意を呼びかけた。さらに言えば、「子どもに、親の目の届かないところでインターネットを好き勝手にさせるメディアが売り出されたことが問題だ。」といい続けてきた。しかし、この私の主張は、日本の社会に理解されていたわけでは無さそうだ。子どものインターネット利用に関する国民的コンセンスがない状況が今後も続くのではないか、そんな思いがしてきた。総務省の「利用者視点を踏まえたITCサービスに関わる諸問題に関する研究会なる機関が取りまとめた青少年のスマートフォン利用に関する提言書の内容を見ると、そう思わざるを得ない。

 今回の提言で興味深いのは総務省がケータイに代わるモバイル商品としてのスマートフォンの青少年の普及に一定程度の関心を示していることだ。私が知る限り、携帯電話業界関係者は、いわゆる『ガラパゴス携帯』に変わる次世代ネット端末機としてスマートフォンを売りたがっている。しかし「子どもの健やかなインターネット利用を実現しようという親や教師によるペアレンタルコントロールという視点からすればスマートフォンはケータイ以上に厄介なインターネット端末である。このことは本コラムででも再三述べた。つまりスマートフォンは「青少年ネット環境整備法の精神からすれば、ケータイというネット端末以上に早めに、しっかりした安全対策の手を打っておかばならないネット端末機だ」というのが私の認識である。然るに、前記の総務省研究会の内容からは、そうした真剣な議論、討論の様子は感じられない。端的に言えば相変わらずドロ縄式の発想である。

 例えばスマートフォンの普及で問題とされるのが無線LAN経由のインターネットの接続(Wi-Fi接続)による子どもの有害情報利用の拡大であるが、これについて総務省は特段のフィルタリング利用策等は必要がないとしている。その理由としては青少年の間にスマートフォンを使ったWi-Fi接続(無線LAN)がさほど広がっていないから、ということのようだが、この認識は甘いのではないだろうか。私としては無線LANからの利用が広がっていない、あるいは、広がらないだろうという判断の根拠となった材料が知りたい。しかしそれは公表されていない。そもそもスマートフォンはWi-Fi接続が可能なネット端末として売り出されているのだから、子ども達がそこに魅力を感じてもおかしくはないのだ。広がらないという理由が知りたい。もし無線LAN接続が拡大したら原発と同じように「想定外だった」という気なのか。しかし、総務省もケータイに代わる新しいネット端末機による無線LAN接続というリスクについて全く無視していないことは分かった。それどころかスマートフォンの落とし穴を一応気にはしている。それがわかった。

 もうひとつスマートフォンは子どもの有害情報利用対策上、ケータイにはないリスクを内包している。それは「有害アプリの利用」だ。子ども達にとって、スマートフォンというネット端末機は自分流にグレードアップ(使い勝手の向上)ができることにある。総務省の研究会はこの未成年の有害アプリ利用対策として、サイトの認定ならぬアプリの認定制度を作ろうという考えのようだ。子ども達にとってスマートフォンは、使いたいアプリ(ネット遊び商品)をネットから自分の端末に直接取り込むことが出来る。そのアプリの種類、数は急速に増えていて、中には有害アプリもある。

 携帯電話はフィルタリングで有害サイト利用規制をするが、スマートフォンはサイト規制はもとより、アプリの利用規制が重要になる。例えば子どもに有害な商品を売っているネットのお店(サイト)を規制しても、そこで売っている有害商品を子どもが直接ネットから自由に買えてしまうと困る。そこで有害なアプリの利用が出来なくする手を打たなくてはいけないわけだ。そこで有害サイトの利用をさせなくするサイト利用のフィルタリングにもまして、有害アプリを使わせなくする安全策を考えなくてはならない。前記の研究会は、スマートフォンから子どもが利用するアプリを選別し、有害なアプリを子どもに直接売らせないようにしたいという考えのようだ。逆に言えばネットの販売サイトを子どもに利用させる場合は子どもに害のない健全アプリだけを売るようにさせようということだろう。そのためアプリ健全認定機関を作るつもりのようだ。この発想はケータイでやって問題の種となっている健全サイト認定に似ている。つまりケータイに代わるスマートフォン時代のEMA,第二のEMAという役人の天下り組織を作りたがっているようだ。

 しかし、この健全アプリ認定がどのように行われるのか。疑問も多い。下手をするとケータイの健全サイト認定同様に、認定基準が業界の都合で好き勝手にきめられ、そこから現在のEMAが作り出した「健全という名の有害サイト認定制度」と同じものが作られてしまう可能性も大きい。アプリの健全認定をするなら現在のサイト認定制度への反省もきちんとなされる必要がある。何しろEMAの健全サイトの利用で子どもの性被害等有害性が広がっているのだ。ちなみにEMAの認定制度がいい加減になった原因は携帯電話業界は言うまでもなく、子どものネット利用に責任を持つべき保護者や教育関係者にペアレンタルコントロール(子どものネット利用の管理・監督の営み)の知識・認識がないことにある。

 すでにこのコラムで書いたように総務省や業界が、子どものインターネット利用の直接責任者である保護者や教師のペアレンタルコントロール努力を助ける製品やサービスを発想し。そこから商品開発のあり方を見直さない限り、今回の総務省の研究会が自認しているように、スマートフォンでも、ケータイと同様の実効性のないドロ縄式対策が続くに違いない。改めて言うが、ペアレンタルコントロールとは「子どものインターネット利用の安全・健全を実現するための保護者(教師)の管理・監督の営み・努力である。EMAや総務省は、これまで、その営みを助ける努力をしてこなかったといっても過言ではない。ケータイフィルタリングひとつとってもせいぜい後追い、ドロ縄式対策だったし、EMAの設立に見るように保護者のことを真剣に考えた対策ではなかった。ケータイ時代のその失敗をスマートフォンでも繰り返してはいけない。そういう世論が生まれなくてはいけない。

 子どもらが使うインターネット端末が、携帯電話からゲーム機、スマートフォンなど新しい端末に変わっても、ペアレンタルコントロールの営み、原理はかわらないのだ。そのことを総務省や業界が理解せぬ限り、ドロ縄式対策は続くだろう。