快楽のネット利用ビジネスの隆盛と子どものネット利用問題

 私がケータイ問題(子どもの携帯電話利用問題)に取り組もうと決心したきっかけは10年以上前の学校裏サイト騒ぎであった。私は当時群馬大学者社会情報学部に研究室を持っていたが、そこに近隣の中学校長らが「生徒達の有害な携帯電話利用を止めさせる方法を教えて欲しい」と言ってきたのである。
  子ども達は、当時、無料の掲示板遊びサイトを使って他人を傷つける誹謗中傷、デマの書き込みやワイセツ情報の発信遊びなどを始めていた。

 学校ばかりではない地元の警察からも中高生の出会い系サイト利用事件の解決の相談を受け、私は大学の地域貢献活動としても、子どものケータイ利用問題に取り組み始めた。しかし、大学の教員という立場とは別に、下田個人として子どものネット問題に踏み出すきっかけとなったのは2004年と2006年の2つの国際会議だった。

 2004年に群馬大学で下田研究室が開いた子どものネット利用に関する日米英の市民交流会では、米国のネットマムらが「フィルタリング無し、ペアレンタル・コントロールもしていない日本の子どものケータイ利用は、子どもを駄目にし、社会にも害をなす」とはっきり忠告してくれた。さらに2006年にソウルで開かれたアジアの「子どもとインターネット利用に関する研究者会議では「日本のインターネット利用はプレジャリング・ウェブ(快楽のネット利用)に向かい、子どもを巻き込んだ社会問題を生み出す可能性が高い、と指摘された。本来のインターネット利用は「人間の理性を向上させ社会の質的向上を実現するラーニング・ウェブが目標となるはずが、日本では逆にネット利用で社会の質の低下が心配されると言うわけである。

 快楽のネット利用では、個人と社会の有害情報(誹謗中傷、差別、エゴイズム、暴力、薬物、セックス、怠惰、金銭欲など欲望の情報)の受発信を活発化させる)この理性と反対の欲望追及のネット利用(主として子ども向け)で荒稼ぎした携帯関連ネット業者は、ペアレンタル・コントロールがケータイより一層難しくなるスマートフォンで新たな利益チャンスを狙い、国(総務省)もその後押しをしようとしている。彼らは、子どもの有害情報の受発信遊びなどのリスクを金と権力で押さえ込めると考えているようだが、賢い保護者や教員を味方にしないかぎり、と言うより快楽のインターネット商売そのものにブレーキをかける努力をしない限り、根本解決のシナリオは出てこないだろう。

 人気のコミュニティ・サイトの大手業者であるミクシィで薬物取引のシャブコミュなるサイトの利用を防ぐこともできないのに、危険な大人の子どもへの接近を防ぐゾーニングなどは期待できない。快楽のためのネット商品を開発するため熾烈な競争をしているネット業者が、子どもの成長に良いウェブ環境を作ろうとしてもできないし、利益を削ってまで安全性確保に向かうとは思えない。EMAのようなよこしまな組織を温存させ、フィルタリングの普及やネット環境の浄化をいうのは、そもそも無理がある。