「マスコミの取材に注意」

読売新聞2003年7月7日「シリーズ今どきのこども・7」『ケータイ中毒予備軍』の中の文章(下田のコメント)「・・・・学校もあまりに無策だった」について教育現場から抗議の気持ちを込めた次のようなメールが来ました。実は、この書き方には私も誤解される危険を感じましたが、この短いコメントに、いやな思いをされた現場の教師の方々も多かったと思いますので、そのやり取りを紹介します。

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教員S

教職歴27年の教員Sさんから下田へのメール

教職歴27年の教員です。
 今朝(9日)読売新聞の朝刊に掲載された「携帯電話に関する記事」の中で、下田教授のコメントがありました。「携帯電話の急速な広がりに対して、学校現場はあまりにも無策だった。」と。マスコミ、新聞というのはおおよそ都合の良いことしか書かないので、あまり信じることはできません。教授のお考えの本当のところを知りたくて質問致しました。話の成りゆきや前後の経緯などから真意を知りたいと思います。

 もし記事の文言通りなら、これほど教育現場を知らない人が、もっともらしくコメントしてもらっては困ります。クラスの中で携帯を持っている子に対して、持つなと言うことは決して言えません。親が買い与えているのですから、教師が口を出すことではないのです。口を出したら反発を買うことは必至です。授業中に使うな、というくらいしか手だてはないのです。教授の言うところの有効な策とは何なのでしょうか。

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下田

群大の下田です。お問い合わせに関して

群馬大学の下田です。
 読売の若い新聞記者の短いコメント記事には、私自身ぎょっとさせられました。彼が書きたいところだけを、私の2時間近い研究室でのインタービューで、抜き出して書かれてしまいました。貴兄の気にされた「携帯電話の急速な広がりに対して、学校現場はあまりにも無策だった。」というくだりですが、現場の謳カからすれば嫌なセリフだと思います。これでは先生たちを非難だけしているようにとられます。

 事実を申し上げます。私は2年程前から現場の教師より「子供達の携帯電話の持ち込みに悩んでいる。何か手を打ちたい」という相談や依頼を受け、その教師たちとともに「携帯利用のためのテキスト」を編集したり、学校側から呼ばれて出前講義をしたりしてきたのです。そうした地道な努力を県庁もみて群馬県では「地域のメディア教育の良い例」として支援を申し出てくれたくらいです。

 さて私のティーンズ携帯電話利用問題の核心は、「保護者の責任とメディア教育」にあると考えます。私を呼んでくれる学校や先生方は、子供達に直接解説するだけでなく「保護者の意識を変えたい」ということを強調します。インターネットは自己責任の世界で、そのためインターネットに繋がる極端なパーソナル・メディアとしての携帯電話利用については親や保護者の責任が問われることを、この3年間強調してきました。

 そのためにこれからは日本でも地域社会のメディア教育が必要だと考えます。私が考える有効策は、米国のように地域のインターネット教育をすすめるNPOができて、賢い家庭のネットワークを形成し、学校と協力してインターネット時代の自己判断、自己責任能力を持つ子育てシステムを形成することです。社会学者として情報社会の問題解決をする提案をするだけでは間に合わないので自身もそのためのNPO活動に取り組んで居ります。

 貴兄の嬉しいお問い合わせに、私のかんがえを述べました。ぜひお考えを聞かせてください。

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教員S

下田教授、お忙しい中早速のお返事ありがとうございます。
「やはり」という感じですね。マスコミというのはとかく自分たちに都合のいいことだけを誇張して書き、それによって読者が三面記事的な興味で関心を持ち、結果として販売部数が増えればいいのですから。教授がお考えになっていること、読ませていただき納得致しました。ただ、教育現場の現状として、保護者を教育すると言うことがほとんど不可能であることから、先行きの不安感は否めません。親の価値観で子どもは育ちます。居酒屋に平気でこどもを連れて行き、そこで自分たちは酒を飲み、子どもには酒の肴で夕食を取らせるという若い親。小学生の子どもにも平気で髪を染めさせる親。自分の子どもが起こしたトラブルをすべて他人のせいにする親。彼らに対して何か指導的なことを言おうものなら、逆に食ってかかられる。マスコミは常におもしろおかしく学校をたたく。こういった教育荒廃を生み出したのは、マスコミと一部の迎合的な教育評論家でしょう。教授のように地道な活動を通して意識改革を進めていこうとする人たちにも、このような形で揚げ足を取ったり、意図的な報道をしたり、実にけしからんことだと思います。私の教え子にも群馬大学に進学したものもおります。是非これからも地道な教育活動にご尽力いただけますようお願い致します。本当にお忙しい中、お返事いただきありがとうございました。