スマートフォンで子どもの能力を伸ばせるか

業界の売り込み

 小中高生など子どもの社会でケータイに代わるモバイル端末としてゲーム機の利用やスマートフォンの普及が始まった。特にインターネット端末としてゲーム機が小学生の世代から広がっている状況については内閣府の最近の調査(2011年3月発表)が明らかにしている。(青少年のゲーム機の利用環境実態調査)

 小中高生のスマートフォン利用の広がりについては未だ数的にはっきりしていないが、携帯電話会社の宣伝や店頭での売り込み状況から急速普及が予想されている。とくに業界は「ケータイ(ガラケー)の時代は終わった。これからはスマートフォンです」と意気込んでいるのだ。

 携帯電話会社の中には、子どもたちへの売り込みに関して保護者に「スマートフォンでもフィルタリングができますから安全です」と説明したり「スマートフォンはパソコン並みの能力があるので、お子さんの学習ツールとしても使えて安心です」と説明するところも出てきた。

 しかしスマートフォンが子どもにとって本当に安全安心かは最終的には保護者がケータイの時以上にきちんと判断しなければいけないだろう。

 まず子どものネット利用の安全面だが、前回のコラムでも指摘したように、スマートフォンのフィルタリング・サービスは保護者にとってはケータイ以上に良いとはいえない。スマートフォンはパソコンのようにWi-Fi接続できるので心配だが、その対策は携帯電話会社が責任を持ってやってくれると思うと間違いで、保護者の自己責任にされかねない。つまり店頭では簡単な説明のペーパーが渡され「これを見て親御さんがやってください」とか「ネットから設定マニュアルをダウンロードしてください」となる。その設定内容説明もキャリアの販売機種により違うことがあるし、ケータイのようにキャリアがワンストップ・サービスや一元管理サービスをしてくれるわけでもない。保護者には購入にあたってケータイ以上のわずらわしさ、負担がかかる。だから「スマホ買って」と騒ぐ子どもに「店員さんによく聞きなさい」と逃げの手をうつことになる。仮にWi-Fi接続対策にもなるフィルタリングがちゃんとかかって有害サイトを排除できるとしても、スマートフォンを子どものネット利用能力向上に使えるという保証はない。

 なにしろスマートフォンは、ケータイ同様に画面が小さい端末機のため、OECDが問題にしている「ネット利用による読解力向上など」に繋がるような高度な情報活用は難しい。このことは最近のアメリカからの情報(2011年4月配信のRBB Today)でも検証されている。

モバイル端末では読解力など能力向上は難しい

 アメリカでウェブサイトの使いやすさ(ユーザービリティー)研究の第一人者とされるヤコブ・ニールセン博士は自己のコラムで興味ぶかい見解を発表した。すなわち、「iPhoneのようなモバイル機器の小さな画面から内容が複雑・高度なコンテンツを読むと、デスクトップ・パソコンを使って読む場合に比べて理解度は著しく落ちる(コンテンツの内容理解はおよそ2倍ほど難しくなる)」ニールセン博士の実験によるとその理由の第一は、画面の小ささである。モバイル端末の小さな画面から複雑な、まとまった文章や図表など文章情報を読む場合、まるで「のぞき穴」から読んでいる状態になり、読解の生産性が著しく落ちる。下田の理解では、小さな画面では一覧管理が難しい。長文の文脈理解(読み取り)なども、小画面で分断された短文を頭の中でつなぎ合わせて行わなくてはならない。図表の意味とり、理解など「のぞき穴」からでは大変だ。

 また、ケータイやスマートフォンなどモバイル端末機は、いつでもどこでも移動しながらでも使える便利さもあるが、その利点も集中して意味とりすべきまともな情報の場合、欠点となる。ちなみにニールセン博士は、デスクトップ・パソコンからとスマートフォンからの同一コンテンツ読み取り実験にあたって、パソコン同様スマートフォンの利用も周囲からの雑音が入らない集中できる実験室で行った。それでもスマートフォンの利用の生産性は劣った。

 スマートフォンもケータイもモバイルだから意識が集中しづらい環境で使われるのは当然で、そのため情報理解の生産性は当然落ちているのだ。インターネットを使った学習用具にしてはスマートフォンもケータイもパソコンに劣るわけである。