メディアマジックの目標(目指す先)

 「閉鎖的ネット空間によるコミュニティ・サイト商売をする方が解放的ネット・コミュニティの商売より金を儲けることができる」と言っているのがラインという新興のネットサービス。クローズド・マインド」なウェブ利用はコミュニティの密室化につながり、その流れの中で誹謗中傷やワイセツ情報のやりとりがふえる。それを証明したのが学校裏サイトだった。しかし世の中はラインをもてはやすばかりで相変わらずの思考停止状態が続いている。ネット業者の奇妙な居直り主張ということでは、ある種のゲーム・コンテンツについて「このゲームは中毒性の高いゲームです」と表示しているのにも驚く。どうやら小学生でもできる単純反復型のゲームが、中毒症状になりやすいゲームということのようだ。

 ゲーム・アプリ業者に限らず、ゲームサイトなどコンテンツ開発、配信業者の目的は、大人であれ、子どもであれ、ユーザーを中毒と言えるほどの依存状態にすることを目標にしている。そうすれば儲かると公言しているようなものだ。

 私は、子どもだけでなく大人をも夢中にさせ、意識の働きや心理状態にまで影響を与えるメディアの効果を「メディア・マジック」と呼んでいるが、このメディア・マジックの応用分野のひとつが中毒症状を実現させるゲーム・コンテンツであることは明らかだ。ゲーム・コンテンツの制作や販売で儲けようとしている企業は、最終的には、インターネットの配信力が頼りだ。つまりメディア・マジックは、インターネットの伝達パワーとネット端末機の高度化によって実現する。ラインや中毒アプリを目指すゲーム・コンテンツ業者は、中毒というほどのネット依存状態に引き込むためにメディア・マジックの実現を目指している。

 マクルーハンの予言

 日本では携帯電話というモバイル・ネット端末の発達で、子どもから一部の大人までをゲームのような快楽的ウェブ利用で縮み思考の依存症に引き入れようとやっきになっている。ケータイがスマートフォンに代わったことで、メディア・マジックの負の力はさらに(特に子どもに向けて)強まろう。

  一方、メディア・マジックの開放的、発展的影響も見逃せない。そこで思い出されるのが、1970年代末から80年代に注目されたメディア学者マクルーハンの予言だ。インターネット以前のメディア・マジックの現象は、テレビによって引き起こされた。白黒のテレビからカラー画面になって大人ばかりか子どもも「テレビ漬け、テレビ依存」となた。しかしテレビ放送というメディアは衛星通信を利用して単なる個人の意識を超えて地球社会規模の意識変化を引き起こした。その意識変化を、マクルーハンは地球村(グローバル・ビレッジ)という言葉で表現した。

 その一番分かりやすい例が、衛星通信技術を使ったオリンピック競技の世界同時中継だった。世界中の何億という人々がテレビ画面に映し出されたメイン競技場のレースを、同時体験する。その過程で、マクルーハンの言う「地球村」意識が生まれた。つまりメディア・マジック効果である。

 インターネットはテレビ以上に、人類の地理的制約を越えた村意識を作り出す。例えばインターネットは、液晶画面上に仮想の商店街を作り出し、言語の制約さえなければ、そこで売り買いのコミュニケーションや買い物客同士の友人付き合いさえ生み出す。つまりこれまでにないメディア・マジックが実現する。

 子ども達は、インターネットのメディア・マジックによって生まれる地球村(共同体)で、いかによく生きるかを考えていかなくてはならないし、我々にはネット社会で発展的な人生を設計しようとする子ども達を助けなければならない。

 いつの時代も、子育て、教育は、家や地域という狭い社会から、広い人間社会に子ども達を旅立たせる営みである。日本が封建的な狭い社会から、時代を担うべき青少年を海の向こうの広い社会に旅立たせ、視野を広げ能力を高めて帰国した若者達が日本の近代化を実現した。

 今、子ども達を世界に運ぶ力は船や飛行機ではない。インターネットというメディアの力である。しかし日本の子どもがインターネットのメディア・マジックの力を使い世界に羽ばたく前に、ネット依存、中毒というメディア・マジックの病的な影響を受け、発展的な人生が拓けなくなることを真剣に恐れなくてはいけない。

 ラインやラインの競争相手を目指すはずのDeNAそれにスマートフォンで中毒性の高いゲーム・アプリを開発すると言い始めたゲーム会社などから2013年は目が話せない。