タブレットで勉強良いの? 市民インストラクターからの質問メール

 各地で梅雨の終わりが猛暑の夏の幕開けになりそうです。ここ信州では、朝夕は幾分涼しいが、日中は日差しが急速に強まっています。私は梅雨の時期に『スマホ時代の子どもの問題』について原稿を書き終わりましたが、この間にわが国の情報科学のリーダーで、「インターネットの副作用」を提唱される阿部圭一先生より紹介された2冊の本を読み、日本のインターネット利用とりわけ子どものネット利用・教育の方向や効育政策が曲がり角に来ていることを強く感じています。

 私自身は、国策と称して子ども達に何が何でも携帯電話からインターネットを使わせようとしてきた総務省やネット業界に異議を唱えてきたのですが、次の2冊の本は、さらに本質的に核心に触れた主張なのでぜひご紹介したいと思います。

1.まず、高田明憲氏の『ネットが社会を破壊するー悪意や格差を増幅し知識や良心を汚染する』(リーダーズノート出版)ですが、この本で、社会というのは「日本の社会」ということだと分かりました。私の理解では『インターネットという高度なメディアを、金儲けや快楽的に使い過ぎると社会が壊れるということです。幾分難解な本ですが、しっかりした論考だと思います。

2.もうひとつの本は岩波書店のブックレットで「ほんとうにいいの?デジタル教科書」(新井紀子著)です。この本の優れた点は、政治家や官僚(総務省)が経済効果をうたい文句に、小学生からタブレットのようなデジタル教科書を強制的に使わせようという意図(政策)の教育的問題を整理し、問題を提起している点です。

 伝統的な紙の教科書で学ぶメリットを安易に捨て去り、何が何でも、インターネット(タブレット)を小学生から使わせて、勉強させることで、本当の文章の読解力や情報収集力さらには、思考力や対面でのコミュニケーション能力を学ばせる機会を損なう。タブレットのようなインターネット端末機を使って能力を伸ばす前に、タブレットをバラまけば子どもが良くなるという単純なものではない。子供達の将来の能力発展の基盤となる(基盤的能力―自分の問題意識を固めるための調べる力や文章の読解力、さらには他者の意見を聞き、自分の考えを固めて主張する力)ができてからにすべきだとし、初等・中等教育を経済効果追及でダメにすれば、社会の発展は望めないとさえ主張しているのです。この点は「インターネットを誤って使うと社会が駄目になる」と主張する高田氏の意見に通じるものがあり、私も全く同感です。

 そんなことを考えていた時に、香川県の「市民インストラクター」の方から「教えてください。小中学生が通信講座でタブレットを使って問題を解いているのは勉強だからいいのですか?」という質問メールが来ました。この質問への私の答(返事)は「決してよいことではない」です。理由は先の2冊の本、とりわけ新井紀子氏の「ほんとうにいいの?デジタル教科書」に書かれている「小中学生の基盤能力が損なわれる」にプラスして、私の「快楽的ネット利用の入り口になる」及び米国小児科学会の「教育的目的といっても児童のアプリ利用(タブレット利用)は問題がある」という3点です。

 3点の理由のうちのひとつである下田の「快楽的ネット利用の入り口になる」という考えについて説明します。スマホやタブレット時代の私の警告は、ケータイ問題の分析対策経験を基にしています。結論を言えば、「日本の子ども達のケータイ利用は買春(エンコウ)や誹謗中傷(ネットいじめ)など青少年の負の遺産を残したままです。スマホはそのケータイ時代の負の遺産を自動的に帳消しにするという人もいますが、私はむしろ増幅すると見ています。「スマホやタブレットはケータイと違い、学習目的に使えるから大丈夫」という学者もいるのは事実ですが、私は現実を見ると、とてもそんな甘いことを無責任に言えません。ケータイに変わるスマホやタブレットは「有害アプリの利用やネット・ゲームなど快楽目的利用に、ケータイ以上に適していると思います。

 デジタル教科書としてのタブレット利用の問題は新井氏など研究者の主張に理がありますので、私はスマホやタブレットが誹謗中傷やネットゲームなど快楽的利用リスク拡大する(既にその兆候が現れ、学校現場からはラインや有害アプリ利用の問題報告が私のところに寄せられている)と見ています。

 ケータイ以上の高性能端末機の快楽的利用で最も心配されるのは、ネット依存・中毒です。既にスマホでケータイ以上の長時間利用が始まったという調査は多々出ています。インターネットの快楽的利用が、依存からネット中毒に進むと、小中学生の子ども達の心身の不調や健全な脳の成長プロセスに狂いに進むのは明らかです。教育目的という名目でバラまかれるスマホやタブレットの目的外利用がネット依存から中毒の入り口になる恐れは十分にあります。「タブレットのバラまきに伴うマイナスの影響を、まず子育て教育の直接責任者である親や教師がしっかり理解する必要があります。