基調講演「ペアレンタルコントロールの重要性」

 子どもたちによる携帯電話・インターネットの利用をめぐっては多様かつ広範な問題が発生しており、世界的にも珍しい日本特有の現象が起きている。私は、2004年に、アメリカの高校生やイギリスの専門家を招いて国際セミナーを開いたことがある。そのときに日米子どものネット利用の違いを強く意識した。アメリカではパソコンからインターネットに接続するのが一般的だが、日本の子どもたちの間には携帯電話を使ってインターネットに接続するやり方が急速に普及していた。

  携帯電話は、一見するとただの電話にすぎないように見えるが、実際はそうではない。私は携帯電話のことを史上最強のメディアと呼んでいるが、一度親が子どもに携帯電話を買い与えると、子どもたちは、親を飛び越えて、ダイレクトに悪い大人や有害な情報に接することができるようになってしまう。親に知られず違法な薬物を購入したり、援助交際に走ったりする子どもたちがふえるのは、携帯インターネットの特性――教師・保護者の見守りを困難にする――から生じる構造的な結果なのだ。子どもたちが犯罪の被害に合うばかりではない。ネットいじめ等、容易に加害者になってしまうこともある。

  この図は下田研究室による子どもたちの携帯電話・インターネット利用問題への約10年間の対応状況を整理したものである。図のうち右側の半分を占める少年犯罪と消費者問題は主に「ブラックゾーン」利用の問題であり、丸の左側にある学校生活と家庭生活の問題は「グレーゾーン」利用の問題だ。

  携帯インターネットのメディアとしての特性は、極度なパーソナル・メディアであることである。インターネット上には「ホワイト」なサイトだけではなく、「グレーゾーン」や「ブラックゾーン」に属するサイトも数多く存在する。携帯電話を持った子どもたちは、いつでもどこでも、それらのサイトに接続することができるようになってしまう。

  「ブラックゾーン」は法律によって規制することが可能であり、警察や消費者センターの関与によって解決することもできる。一方、「グレーゾーン」は、法規制によって対応することが難しく、国の対応が後回しになりェちだ。「グレーゾーン」は儲かるから悪い業者も多く、対策に時間とお金がかかる。国や事業者の問題意識が低く取組が遅いことが状況悪化を加速させている。そもそもフィルタリング機能がついていない携帯電話を子どもたちに販売してきたことはいかがなものか。

  では、このような現状に対してどのように対処すればいいのか。ここで、私が皆さんに強く訴えたいのは、「子育て教育に責任を負うのは誰なのか」ということである。ネット業者ではない。子育てに責任を負うのは保護者・教師である以上、保護者がインターネット時代でも、子どもたちの行動を見守り、注意していくしかないというのが私の考えだ。これがペアレンタルコントロールの考え方の基本である。

  ペアレンタルコントロールとは、子どもの育ちに責任を負っている保護者や教師が子どものネット利用を管理・指導する営み、あるいはそのための能力をいう。保護者がペアレンタルコントロールの能力を身につけるためには、次の4つが重要だ。第一に、保護者が子育ての観点からインターネットのメディア特性を理解すること。第二に、子どもへの約束の仕方を学ぶこと。第三は、子どもたちのネット遊びを見守る方法を知ること。第四は、子どものネット利用を指導し、リスク回避能力や有効利用できる親の能力を高めることである。

  私どもは、日本の各地で核となる市民のインストラクターを養成し、市民が保護者を育てられるようにすることを主要な活動として行っている。携帯電話の利点を強調しがちな企業のインストラクターとは異なり、保護者がペアレンタルコントロールの能力を身に着けるようにすることを重視している。保護者に代わって業者が子どもたちの行動に責任を持って見守ることはできない。私は、業者が健全サイトを認定することには疑問を感じている。何が健全サイトに当たるかどうかは、業者ではなく子育てに責任を負う保護者・教師が決めることだからだ。

  なお、「保護者の責任」と言ったが、何でも保護者の自己責任に帰し国や事業者が責任を負わなくて良いという意味ではない。自己責任を負うためには判断に必要な情報が提供されていることが前提となるが、事業者から保護者に対して十分な情報が提供されているとは言いがたい。説明責任が全く果たされてこなかった。国や事業者は、保護者の子育てに必要な情報を開示して説明すべきである。

 根が深い問題であり、すぐに解決することはできない。保護者がペアレンタルコントロールをすることができるよう、継続的に活動を支援していくこと、保護者と学校のコラボレーションを図り最終的には子どもに害を及ぼさないネットビジネスを実現させること、その流れを作っていくことが重要だ。

下田博次・群馬大学特任教授