メディアマジックとは

 2月19日名古屋市で愛知県市民インストラクターの勉強会に出席し、「ペアレンタルコントロール」の実践的理解などについて話をした。そこで下田が配布した資料の中の「メディア・マジック」という用語に興味を持ってくれた人から、この言葉の意味をもっと詳しく知りたいので参考書などはないかという質問を受けた。特にメディア・マジックという用語の一般向け解説書はないと思うので、このことばを日本で使い始めた下田の知るところを以下に書き示し、参考にしてもらいたい。

 まず我々メディア論の研究者が「メディア・マジック」というとき、それは「メディアの飛躍的進化」を意味している。私が「メディア・マジック」という言葉を最初に聞いたのは1997年の渡米の時で、当時ロスアンゼルスのパソコンマニア達の集まりで、これからのパソコン進化の方向性を決める象徴的言葉として若い技術者達が使っていたことから興味を持った。つまりPCは、単なるEDP(電子データー処理機)システムの超小型化を目指しているのではない。パソコンは万能のメディアとしての進化の道を歩んでいく、というコンセプトだったが、私は衝撃を受けた。

 当時の日本では、コンピュータは単なる梗塞ソロバン(計算機)というイメージだった。このパソコンのメディア化という方向性を示したのはパーソナル・コンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイであった。例えば、アラン・ケイは「自分の夢は大型コンピュータの超小型化ではない。ギターやピアノなどどんな楽器にもなる持ち運び可能なマジカルなメディアとしてのノートパソコン」を目指している。といった。アラン・ケイがそういう設計コンセプトを持っていたことは私自身も渡米して理解していた。

 このノートPCは楽器のような表現メディアにもなりうるという設計コンセプトは、最近のi Padのようなタブレットにも引き継がれている。ノートPCをさらに薄型にしたタブレットの画面にピアノの鍵盤の絵(CG)が描かれれば、それがかばんの中に入るピアノとなり、どこに行っても作曲や演奏ができる。これがメディアの進化(マジック)なのだ。

 そうしたハンディーなPCやディスク・トップPCがデジタル回線で相互接続したインターネットというパソコン・ネットワークになると、メディア・マジックの力がさらにパワーアップする。インターネットのメディア機能は、次々と新しいマジカルなメディア機能を送り出し、今後もその新機能開発は止まらないだろう。しかし、インターネットのメディア・マジックも喜んでばかりはいられない。特にこのマジカルなメディアを子ども達にどう使わせれば良いのか。この問題意識は今や世界の大人社会に共通している。

 実際に私は、2004年と2006年に子どものインターネット利用国際会議」でそのことを確認している。特に2006年の「子どものインターネット利用に関するアジアの研究者会議では「メディア・マジックに飲み込まれる子ども達というテーマとなりメディア・マジックという言葉が会議のキーワードとなった。2006年のメディアマジックをめぐる会議では、インターネットを使ったオンライン・ゲームというメディアが議論の焦点になった。

 子どもの大好きなゲーム・メディアもテレビゲーム、ファミコンゲーム、超小型の専用ゲーム機からインターネットのオンラインゲーム遊びへとメディアの飛躍(メディア・マジック)があった。このゲーム・メディアのパワーアップの中で、子どもをどう守り育てるか。それが2004年に私が群馬大学で開いた日、米、英の保護者市民交流会議のメイン・テーマであった。

 インターネットというメディアでは様々なマジカルなメディアが開発された。かつての郵便システムで発達した手紙に代わるEメールや町の木製の連絡・伝言板に代わるネットの掲示板など数々のネットのメディア機能が使われるようになった。

 Eメールは紙の手紙より便利で気楽に書いて送ることができる。ネットの掲示板も、木製の町の掲示板より格段に便利で、どこからでもいつでも書き込みができるマジカルなメディアだ。しかし、その利用の気楽さや便利さから、子どもらがいじめメールやデマメールを発信したり、便所の壁に落書きするようにきらくにネットの掲示板に悪口を書いてトラブルや事件にもつながる。

 ゲームでも、ネットゲームは仮想の表現力が高まり、インターネットで間単にゲーム友達も探せることから、つまり、格段のメディア・マジックの実現の結果、ネット依存を高め子育て教育上の問題を作っている。この現状に保護者や教員はどう対応するか。2004年の日、米、英市民会議では「メディア・マジックにわが子が振り回されないため、ペアレンタルコントロールを広げなければならない」という認識で意見の一致をみた。

 話をまとめると、パソコンのメディア化とメディア化したパソコンのネットワーク化の結果、本やビデオ、テレビの時代になかった魔術的なメディアの実現、進化が始まりそのイノベーションに「メディア・マジック」というネーミングがなされたわけである。

 このメディア・マジックの歴史的潮流の中で、子育て教育上の問題も生じ、子育てに直接責任を持った保護者は、新たな知恵を出さなくてはいけなくなったというのが現状である。